[回答]
末期慢性腎不全の治療法の3つの柱が、「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」です。
よく知られているとおり、日本では、ほとんどの患者さんは血液透析をお受けになっており、腹膜透析(CAPD)を受けていらっしゃる方は約4%に過ぎません。また、腎移植もなかなか普及していないのが実情です。
それぞれの治療法には、よい点とそうでもない点があります。
どの治療法を選ばれるかは、慎重に、そして主治医の先生と十分な時間をとって相談して、お決めになって下さい。
■ 血液透析のメリット
ある程度、医療従事者におまかせの治療です。
もちろん自己管理は必要ですが、血液透析という治療そのものは、医師・看護師・臨床工学士といった 医療従事者が行います。したがって、治療中はテレビをご覧になったり、ゆっくり休まれたりできるのです。
くどいようですが、「おまかせ」と言っても、自己管理は絶対に必要です。
わが国ではもっとも普及している治療法です。
先にも述べましたが、末期腎不全の患者さんのうち、95%以上の方が、血液透析をお受けになっています。
おなじ治療をお受けになる患者さん同士の交流なども腹膜透析よりは盛んな印象で、インターネットを 利用した情報交換についても、手に入れやすいように思われます。
歴史の裏付けがあります。
腹膜透析に比べて、血液透析の方が古くから行われてきた治療法です。
そのために、技術的にも確立した部分があって、その意味では安心感があります。 血液透析を30年間お受けになっている方がおいでですが、CAPDを30年間お受けになっている方は、まだいらっしゃらないのです。
■ 血液透析のデメリット
時間的制約があります。
治療には標準的な方法で4時間、その方のデータによっては5時間を超える時間が必要です。その治療が週に3回必要なのですから、時間的な制約はかなり大きなものです。例えば、仕事をお持ちの方で、残業ができない、旅行や出張がしにくいなどといったことが、問題となるかもしれません。
ただし、旅行に関しては、旅先の地域の透析施設で血液透析をお受けになる方法があります。それでも、観光の時間などが減ってしまうわけですから、やはり時間的制約は大きなウェイトを占めます。
週3回の通院が必要です。
上の時間のこととも関連するのですが、多くの方は週3回の透析が標準的な治療ですので、その回数、通院をする必要があります。お近くに透析を行っている医療施設がない場合には、通院も大きな負担となり得ます。
腹膜透析に比べると、厳密な食事制限が必要です。
これは、あくまでも比較の問題です。CAPDでも食事の制限や水分制限が必要なことがままありますが、 どちらかといえば、血液透析の方が厳重な食事管理、水分制限を必要とします。
特に、血液透析の場合にはカリウム(生野菜やくだものに多く含まれます)の制限が必要となる方が多いのです。
■ 腹膜透析のメリット
残存腎機能が保たれやすい治療法です。
透析治療が必要になった段階では、まだその患者さんの腎臓にも機能が残っているのが普通です。
その残存腎機能を、なるべく長い期間大事にしていきたいのですが、血液透析と比較して、CAPDは残った腎臓の機能が長持ちしてくれる印象です。
ただし、これには前提条件があって、ある程度腎機能が残っているうちに、CAPDをはじめた場合の話です。
家庭で行うことができます。
CAPDは家庭で(あるいは職場や学校で)行うことができる治療です。そのために、仕事が忙しい方や、学生の方などにはむいている面があります。
また、機材を一緒に運ぶ必要がありますが、旅行もある程度自由にできます。
食事や引水がある程度自由です。
これは血液透析のデメリットのところでふれました。ただし、CAPDを長期に行って、腹膜のはたらきが 悪くなってくると、カリウムの制限や水分の制限が必要となってきます。
体に優しい治療です。
これもあくまで血液透析と比較して、ということですが、治療中に血圧が下がってしまって大変になったり、 頭痛がしたり、ということがほとんどありません。
例えば、心臓が悪くて、血液透析が行えない患者さんなどには腹膜透析が選択されます。
通院が少なくてすみます。
血液透析とちがって、通院は週に1回からつきに1回程度ですみます。そのため、時間的にも、あるいは交通費などを 考えても負担がグッと少なくなります。
■ 腹膜透析のデメリット
何といっても自分で行う治療です。
人任せには決してできません。
毎日の治療で行う操作には、多少なりとも緊張感を必要とします。また、この治療操作を覚えていただくために、きちんとした教育システムを持っている医療施設で、勉強をしていただかなくてはなりません。
CAPDが行えない人がいます。
CAPDの場合には、おなかにカテーテルという管を植える手術をして、その管を通じて治療用の液を おなかの中に入れたり出したりします。
そのため、おなかの手術(特に大きな手術)を受けたことのある人などは、この管を植えたり、おなかの中に液を入れたりできないことがあります。このような場合には、ご本人が希望されてもCAPDは行うことができません。
今のところ、長期の治療ができない可能性が大きいです。
CAPDの一番の問題点と言っていいでしょう。
治療をはじめておよそ5年くらいで(個人差が大きいですが)、腹膜のはたらきが悪くなってきて、十分な治療ができなくなります。そうなると、腹膜透析は断念して、血液透析に移行していただくことになります。
また、未解決の問題に「被嚢性腹膜硬化症」という合併症があります。これは、EPSとかSEPと略されます。 治療を長期に続けるうちに、あるいは腹膜炎などが引き金となって、腹膜が厚くなってしまい、腸の動きが 悪くなってしまう合併症です。最悪の場合には、生涯絶食となって、栄養分はすべて点滴で補う必要が 出てくるかもしれません。もちろん、この合併症がすべての方に起きるわけではありません。 CAPDには注意深く慎重な治療が必要だ、ということです。
■ 腎移植のメリット
本物の腎臓です。
変な言い方ですが、「本物の」腎臓がどれだけ素晴らしい働きをしているか、血液透析やCAPDでは遠く及びません。
血液透析にしろ、CAPDにしろ、腎臓が悪くなってしまったとき、その腎臓の働きを肩代わりする(代償する)治療です。
治療法もずいぶん進歩してきました。けれども、やはり本物の腎臓の働きと比べたら、まだまだなのです。 ですから、透析治療が長期に及ぶとさまざまな合併症が出てきますが、移植をお受けになるとこれらの合併症のうち、 あるものは治ってしまう(あるいは軽くなる)ことがよく経験されます。
もちろん透析という、治療から解放されます。
■ 腎移植のデメリット
きちんとした服薬が欠かせません。
どのような治療法であれ、自己管理やきちんとクスリをのむことは大切なことなのですが、とりわけ腎移植の場合には、このことが重要です。
せっかく移植を受けた大切な腎臓を長持ちさせなくてはいけませんよね。そのためにはクスリののみ忘れなど、決してないようにしなくてはなりません。
クスリの副作用があります。
移植に用いられるクスリは、免疫抑制剤なのですが、さまざまな副作用が出現します。例えば、副腎皮質ホルモン (ステロイドとも呼ばれます)の副作用としては、感染症、肥満、ニキビ、骨が弱くなる、胃潰瘍などがよく知られています。
けれども、最近はこれらのクスリの使い方が確立してきていています。副作用をおそれるあまり、 自己の判断でクスリを減量してしまうようなことがあれば、そちらの方が命取りです。
主治医の先生の指示にきちんと従って、治療をお受けになることが肝要です。
チャンスが限られています。
これが一番の問題ではないでしょうか。
腎臓を提供してくれる方がいらっしゃる方は本当に少ないのです。
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