[回答]
●腎不全という病態の方が、透析治療よりも心臓に負担をかけている
血液透析治療は、腎不全という腎臓の機能がなくなるという病態になってしまった方が、腎臓の働きのかわりとして受ける治療のことです。
実は、「血液透析治療そのものよりも、腎不全という病態の方がずっと心臓に負担をかけていますので、心臓のためにも血液透析治療は必要だ」という点はご理解していただければと思います。
●血液透析治療が多少なりとも心臓には負担をかける理由
血液透析で何が行われているかというと、次の4点があげられます。
(1)尿毒素の除去
(2)除水=水分の除去
(3)電解質の調節
(4)酸塩基平衡の調節=血液のpHの調節
これらの内、(1)と(4)は心臓に悪影響があると考えにくいので、(2)と(3)について説明をします。
<理由1>除水=水分の除去
血液透析の治療と治療の間で水分が貯留しますが、この貯まっている水分は体内では血管の中と血管の外とに分布をしています。
血管の外にたまった水分の代表がむくみ(浮腫)ですね。
除水をするとまず血管内が脱水になります。その後血管の外に貯まっていた水分が血管内に戻ってきます(これをリフィリングといいます)。
水分がスムーズに血管内に移動してくれればよいのですが、リフィリングが悪い場合には、血管の外には水分が貯まっているのに血管内は脱水、というアンバランスが生じます。
この血管内脱水は血圧が低下するなど、心臓に負担をかける場合があります。
<理由2>電解質の調節
電解質の調節ですが、血液透析ではカリウムが除去され、カルシウムは透析液の組成によっては補給されます。
この電解質の濃度変化が不整脈を誘発することがあります。
●心臓に負担をかけないための対策について
除水に関して言えば体重を増やさないことが一番です。
ただし、これは患者さんの自己管理の問題で技術的な対策ではありません。
リフィリングをスムーズにするために、血清浸透圧を上げる薬剤を使用することがあります。副作用が少ない浸透圧物質としてはグリセリンがあります。
また、貴重な血液製剤ですので安易な使用は厳に慎まなければなりませんが、アルブミンは強力な浸透圧物質です。
透析治療のモードとしては、通常の血液透析(HD)よりは血液濾過透析(HDF)や血液濾過(HF)の方がリフィリングがスムーズだと考えられています。
ですから、心機能が低下した患者さんではこれらの治療モードが選択されます。
電解質の変動に関しては、個人用のコンソールを用いて、透析液をその患者さんに合わせた電解質組成にすることがありますが、これはすべての透析施設で可能なわけではありません。
多くの透析施設では透析液はセントラル供給になっていますから、個々の患者さんごとに透析液の電解質を調整することは実際問題としては難しいです。
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