(質問のつづき)
また、いつまでも不均衡症候群の続く方がいますが、これもなぜでしょうか。
[回答]
●患者様の疲れ方には個人差がある
ご質問にあるように、確かに透析後にぐったりしてしまう方と、あまり変わりのない方、それに少数ではありますが、透析後の方がお元気になる方がいらっしゃいます。
私は、透析をお受けになる方やそのご家族の皆様には、「透析は疲れる治療ですよ」とお話ししています。
ですが、上記のようにその疲れ方には大きな個人差があります。
●水分はどこに存在するのか
透析治療で何が行われているか、というと
1)尿毒素の除去
2)水分の除去(除水)
3)電解質(ナトリウムやカリウムやカルシウムなど)の調節
4)pHの調節
の4つが主なところです。
これらのうちで倦怠感の原因となるのはなんと言っても水分の除去です。
たとえばある方が透析と透析との間で2kg増えて来たとしましょう。
その増加した2kgの体重はすべて水分である、と考えて除水をします。
つまり2kg除水をするのです。
この2kgの除水は、すべて血液の中から水分を除去します。
ですが、増加した2kgの水はすべてが血管の中にあるわけではありません。
一部は血管の外に漏れて出ているのです。
この漏れた水分の代表的なものが「むくみ」です。
●リフィリングの速さにも個人差がある
透析で除水を進めるとまず血管の中が脱水になります。
次に血管の外に漏れていた水分が血管の中に引き込まれて、血管の中の脱水を解消しようとします。
このように血管の外から血管の中に水分が引き込まれてくることをリフィリング(refilling)と呼んでいます。
リフィリングの速さには個人差があって、ある患者さんではリフィリングがスムーズなために血管内が脱水の時間がきわめて短くなります。
こういった方では、透析中の血圧は安定していることが多く、また、透析後の倦怠感が軽いことが多いのです。
反対にリフィリングに時間がかかる方では、血管内が脱水の状態が長く続くことになります。
脱水ですので倦怠感が生じ、血圧も低下して透析が大変と感じることが多くなります。
いくらリフィリングがスムーズであっても、その量には限界がありますから、体重の増加が多い方では透析後の倦怠感が強くなります。
たとえば10kg増えて来た方がいて、その水分のうち2kgが血管内、8kgが血管外にあったとしましょう。
透析で血管の中から10kgの除水をして、8kgの水分が血管内に戻ってくるまでには相当の時間がかかります。
●ドライウェイトが適切か
また、その患者さんに合ったドライウェイトを設定しないと透析後の脱水状態が強くなることがあって、倦怠感の原因となります。
私たち透析に従事するものは、透析後の倦怠感の訴えがあった時に真っ先にドライウェイトが適切な値かどうかを考えるようにしています。
●不均衡症候群について
不均衡症候群は尿毒素をたくさん除去しようとするために起きる症状で透析導入期に起きやすい症状です。
透析導入期にあまり尿毒素を除去しないような、いわゆるマイルドな透析を設定すれば、多くの方は不均衡症候群をほとんど経験しません。
また、不均衡症候群を生じてしまった場合はグリセオールなどの薬剤を使用するとその症状がかなり軽くなります。
ですので、私の経験では長く不均衡症候群が続く方はほんのわずかしかいらっしゃいません。そしてなぜそれらの方がこの症状が長く続いてしまうのかよくわかっていません。
ここでも注意が必要なことは、ドライウェイトの設定です。
不均衡症候群の主な症状は透析後の頭痛ですが、ドライウェイトがきつくても(つまり本来ちょうどいいドライウェイトよりも少なく設定していると)頭痛がすることがあるのです。
不均衡症候群と間違われていることがありますので、その方のドライウェイトが少な過ぎないかの検討は忘れないようにしなければなりません。
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