[回答]
●TGCVとは
TGCVは「中性脂肪蓄積心筋血管症(ちゅうせいしぼうちくせきしんきんけっかんしょう)」の略で、2008年に大阪大学大学院医学系研究科 特任教授の平野賢一先生が世界で最初に発見された疾患です。心臓の筋肉は中性脂肪(TG)をエネルギーとして活用しているのですが、TGCVではこの中性脂肪の構成要素である長鎖脂肪酸をうまく使うことができず、心臓の筋肉や血管に中性脂肪が蓄積します。また中性脂肪をエネルギー源として使えないので、心臓はエネルギー不足になってしまいます。その結果として重症心不全、心筋症、狭心症などをきたします。
糖尿病の方や透析治療をお受けになっている方の中にTGCVの方が一定の割合でいることがわかっています。
●TGCVの症状
TGCVでは、心臓のエネルギー不足の結果として心臓がうまく働くことができず、息苦しさ、息切れ、不整脈、むくみ、疲れやすいなどの症状が出やすくなります。また、心臓に酸素やエネルギーを供給する冠動脈という血管に中性脂肪が蓄積して、この血管が細くなることによって胸の痛みなどの狭心症の症状が出ることもよくあります。そのほかに寒がりになるといった、心臓に直接関係ないと思われる症状が出ることがあります。
TGCVに罹患(りかん)されている方の中には、上記の症状から「通常の動脈硬化による狭心症」「心臓の虚血による心不全」「長期の透析治療による心不全」などと診断され、TGCVであることが見逃されている方が少なくありません。
これは医師の中でもこのTGCVについて十分に知られていないことによります。
●TGCVの診断するために
それでは、TGCVをどのように診断するかですが、まずは疑うことが大切です。
上記のように、糖尿病の方、血液透析をお受けになっている方にはTGCVが隠れている可能性があります。また、糖尿病や腎臓病がなくても、狭心症で風船の治療を何度も繰り返しお受けになっている方や、狭心症の症状である胸痛がお体を動かしている時と安静にしている時の両方で出る方、ニトログリセリンの効きが悪い方などもTGCVを疑うきっかけになります。単に心不全と診断されている方もTGCVを疑ってみることをお勧めします。
●TGCVを診断するための検査
診断のための検査ですが、通常の心臓超音波検査(エコー)などで心臓の状態を調べたあと、
心筋BMIPPシンチグラフィ(SPECT:スペクト)というあまり聞き慣れないかも知れませんが、痛みがなく害もない検査で確定されます。この心筋BMIPPシンチグラフィは、TGCVの診断において極めて重要な検査であるとされ、患者の9割において診断根拠となっています。
これ以外には心筋生検やCT・MRによる心筋への中性脂肪蓄積が診断の根拠とされますが、一般的に行われている検査ではありません。
このため、私たち偕行会グループでは心筋BMIPPシンチグラフィを積極的に行い、TGCVの患者さんの診断に力を注いでいます。
なお、病気の名前に「中性脂肪」という言葉がつきますが、血液の検査の中性脂肪の値とTGCVは関係がありません ので、血液検査で異常がなくても油断は禁物です。
もしご自身やご家族・ご友人の中にTGCVではないか、という方がいらしたら、主治医の先生に一度、ご相談ください。
●TGCVの治療方法
いざTGCVという診断がついた場合ですが、治療としてはトリカプリンという成分を主体としたお薬の治験が準備中です。現在のところ、保険が適応されるお薬ではありませんが、このトリカプリンはサプリメントとして販売されていて入手可能です。高額なのでなかなか皆さんにお飲みいただくわけにはいきませんが、治療が必要となった場合には主治医の先生に相談をしてみて下さい。
余談なのですが、このトリカプリンは腹部大動脈瘤という重大な病気に対しても有効な可能性があり、臨床研究が始まっています。今後もTGCVという病気がどのような性質をもっているのか、トリカプリンが心臓と血管のどのような病気に効いてくれるのかに注目していく必要があると考えています。
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